『コーリング・ユー』 読後抜粋
自分の部下ですらない他人にばかばかしい権力者面を見せる人間には
たいていなんとなく軽蔑を感じる
ああいう視野の奴がなまじ権力だけ持ってると、大抵ろくなことにならない
その威光を振りまかれてもピンとこない相手もこの世には多いのだと
いう事実もまた、はっきり知るべきだろう
自分自身の達成感がいわば一番の強化子なんだ
生来の繊細さゆえもあるのか、どれほど孤立した、どれほど特異に
見える個体に対しても、偏見など一度も持ってこともない
電話の声にも知性の深みと大人の艶があった
異常な悪意を持った何者かに、あらゆる角度に振りまわされ
持ち上げられ、落とされ続ける
逃げ場がどこにもないという絶望感が、さらにその苦悩に
追い打ちをかける
自分たちはいったいいつまで、この仔シャチの愛情深さ、
その我慢強さに甘えていなければならないのだろうか
野生動物としての本来の日常には不必要であるかもしれない、
幾つもの突出した能力。
そして種を超えた他者への温かな関心とを共に備えて
この子は生まれてきた
不思議な楽しさ、わくわくした気持ちがどこからか滲み出してくるのを
感じ始めた
この感じ・・・、この模様の感じ、知っている気がする
もしかすると、生まれてくる前からの、深い記憶のようなもの。
「知らない」「わからない」ということと「存在しない」ということとは
まったく別のものだということ