『鵜頭川村事件』 読後抜粋
女の顔は意地悪くゆがんでいた。
暗い愉悦に輝いていた。
依存や執着ではない愛情がこの世にあると、節子は
教えてくれた。
正しい愛しかたを、彼女によっておれは学んだ
やりかえされるのでは、という恐怖
こんなふうに泥くさく声を荒げ、証拠もなく感情的に
人を糾弾するような男ではなかった
このような極限状態において、自分より下位の者を求める
人間の業を感じた
罪の意識から成る、被害妄想
無能で尊大
己の優位性を取り戻そうとあがいている
そのために彼は、力を誇示しなくてはならないのだ
弱者を踏みつけ、服従させられるだけの”力”を
もはや、言葉や情の通じ合う相手ではなかった
肉体的暴力、支配力、破壊力。
他人を制圧できる己の力に、なによりも陶酔していた
武器を手にしたなら、人は驕る。
驕りは暴力へのハードルを引き下げる
ああなりたくはなかった
正気と矜持を保ったままでこの村を出ていきたかった
こんなかたちで、村への怒りと鬱憤をぶつけてなんになるのだ
理不尽な、それだけに純粋な悪意であった