『追憶の烏』 読後抜粋
あの女はおかしかった。
心があるということに、気付かないままここまで来たのかもしれない
あの女は、宗家としての自覚はなく、私欲でしかものを
考えられない愚物だ
あまりに自分本位な言い方に、呆れるよりも感心してしまう
そんなことも分からないのかという徒労感。
そして、あまりに自分と彼女の間で見えているものが
違いすぎる、という絶望感があった
主君のためだと嘯いて、結局自分の欲望に目のくらんでいた男。
頭がよくて、利に聡くて、自分勝手なのにそれを認められず、
美しい言い訳に終始していた。
いずれ理不尽を糺すために、今は耐えるべきだと
舐められまいと虚勢を張る姿は、逆にみすぼらしく見えるものだった