『彼らは世界にはなればなれに立っている』 読後抜粋
伯爵は自分の役に立つことがどれほどの恩恵をもたらすか
機会あるごとに人々に知らしめるのを怠らない性格だった
わけも分からず傷つけられることに倦んでカイから遠ざかった
心にもない言葉でも、充分に人を傷つけることができる。
カイはそれを知っていて、そうすることで自分自身をも
傷つけているような気がした
〈おみやげ〉は、あの男が自分の行為の後ろ暗さを
和らげるためのものだ
できるだけ多くを知ったうえでそれらを胸にしまっておくのが
自衛の要という俺の信念はいつ何時であろうと揺らがない
羽虫を虐げることで瀕死の自由を延命し、なんとか誇りと
自尊心を保っているわけ
強大な力の独占は災い以外のなにものも生まない。
だが人間は富も力も分け合うことを嫌い、可能な限り独占しようと
する。なかでも最も恐ろしいのは、力を持った悪人ではなく、
力を持った愚か者たちだ。彼らはつじつまの合わない未来を
夢見る
根拠のない誇りや、栄光や、繁栄を。
確かに、人の忠誠を欲するのは人でしかないのだ
力による支配が横行し、腐敗が蔓延した。職場でも、隣近所でも
優位な者から人として辱めを受け、理不尽を強いられることも
日常になった
理性と良心を忠誠心にすり替え、次世代への責任を力への盲従で
埋め合わせ、そうして見たいものだけを見て歳月を浪費してきた