『太閤の能楽師』 読後抜粋
”真似ぶ”能力の高さ
不安や不満を口にせず耐える、ということが苦手らしい
役者や舞手にとって、どんな理由があれ、目の前の
客の気を引き寄せられぬほど、屈辱的なことはない
己の油断、不始末の招いた災いの因を、他所へ求める
身愛の甘えた物言いは、安照を無性に苛立たせた
人の不幸を喜ぶ卑しき心根を、己が持っていると
思いたくなかった
余計な飾りはない方が、真の花が必ず開き、
人を魅了いたしますぞ
どうやら、自分はいつしか、手駒として魅力ある
存在になっているらしい。
それは決して、ありがたくも面白くもないことである
民というヤツは、飽くことは知っているが、満たされると
いうことは知らぬぞ。
銭でも、娯楽でも。
次々と、切りがない、底なしなのだ。つき合いきれぬ
ヤツらを喜ばそうとすれば、最後は己が疲弊して終わるのみだ
それが分からぬのか
確かに、庶民の熱狂は、舞手を恍惚の境地に浸らせる。
あの刹那の快楽には、極上の霊水仙薬を総身の毛穴から
注ぎ入れられるほどの魅力、いや魔力がある